
電気分解の陰極・陽極で起こる反応がよくわからない。
水の半反応式が書けない。
今回はこのような悩みを解決します。
電気分解攻略のポイントは「何がどのように反応するのか」を知ること。
それさえできれば何も難しくありません。
最後まで読んで、ぜひ苦手意識を克服してください。
プロフィール

・地方の公立進学校から高校3年間塾に通わず、1浪を経て京大医学部に合格。(歩兵について詳しくはこちら)
・塾や家庭教師における指導数は10を超え、医学部や国公立合格を多数輩出。
・現役医学生ながら「本質的な学び」や「誰にでも再現可能な勉強法」についてブログで発信中。
目次
電気分解とは
電気分解の説明をしていくにあたり、まずはそもそも電気分解とは何なのかを確認しておきたいと思います。
電気分解とは一言で言うと、電気エネルギーを使って無理やり起こした酸化還元反応です。
電気分解
電気分解とは、電気エネルギーを使って無理やり起こした酸化還元反応
酸化還元反応というのは一般的には自然に起こるものですよね。ところが電気分解では、電気というエネルギーを使うことで無理やりその酸化還元反応を起こしているのです。

したがって、水溶液中に存在する物質たちは積極的に電子の授受を行っているわけではなく、エネルギーを与えられたから仕方なく電子をもらったり渡したりしているわけですね。
陽極と陰極で起こる反応
では次に、電気分解でどのような反応が起こるのかについて説明していきたいと思います。まずは次の図を見てください。

この図は電気分解の実験の様子を表しています。
水溶液に電極を2本差し、そこに電源を繋げることで電気分解ができます。電源の正極とつながっている電極を陽極、電源の負極とつながっている電極を陰極と言うので覚えておきましょう。
陽極・陰極とは
陽極…電源の正極とつながっている電極
陰極…電源の負極とつながっている電極
このとき、電子は図に示した向きに流れます。電子は電源の負極から放出され、正極に向かいますからね。
したがって、陽極では正極に向かって電子を放出する反応が、陰極では負極から電子を受け取る反応が起こることになります。

では陽極と陰極では具体的に何が反応するのでしょうか。
実は、それぞれの極板で反応する物質には優先順位、すなわち一定のルールが存在しています。
このルールは電気分解を攻略する上でのカギとなります。このルールをちゃんと覚えていれば電気分解問題で解けない問題はないと言っても過言ではありません。
次の章ではこの非常に重要なルールについてみていきたいと思います。
電気分解のルール
早速ですが、反応する物質の優先順位(=電気分解のルール)を見てみましょう。

これだけ?と思われた方もいるかもしれませんが、これさえ覚えればほとんどの電気分解の問題で何が反応するかはわかります。
もちろん、例外パターンもあり得ますが、そんな問題は受験生のほとんどが解けないので心配する必要はありません。この図の内容をまずはしっかりと覚えましょう。
何が反応するのかが分かれば、あとは陽極・陰極における反応式を書くだけになります。
ここからは反応式の書き方にも触れながらそれぞれの項目について具体的に説明していきます。
陽極1 極板が溶ける
陽極で最優先で起こる反応は極板の溶解です。極板として使われている金属がイオンとなって水溶液中に溶け出すということですね。
一般的に金属というのは水中ではイオン状態になると安定します。したがって、極板が金属の場合は基本的にその金属が電子を放出し、イオンとなります。
ただし、金属の中でもイオンになりにくいものが存在しますよね。それがAu、Ptです。これらはイオン化傾向で最も右に位置する2つです。
したがって、いくら金属とはいえAuまたはPtが極板として使われている場合は極板の溶解は起こらないので注意してください。

なお、先ほど示したまとめではAgまたはCuの極板が溶けると書いてあることにお気づきでしょうか。
これはどういうことかというと、厳密には様々な金属の極板が溶解するのですが、受験で問われるのは圧倒的にAgかCuの極板が使われているケースが多いということです。
陽極の極板が溶ける反応
陽極の極板が溶けるケースは、極板がAgまたはCuであることが多い。
あくまで歩兵自身の体験談になりますが、AgとCu以外の金属極板が溶ける問題は1%あるかないかです。
はっきり言って、その1%のためにわざわざ別のことを暗記するというのは効率が悪すぎます。
勉強していく上で暗記する内容に優先順位をつけることは非常に重要ですので、普段から意識してみてください。
なお、AgとCuの反応式は簡単なので、わざわざ覚える必要もないと思います。

陽極2 ハロゲンイオンの反応
陽極での反応、優先順位2番目はハロゲンイオンの反応です。
優先順位が2番目とはどういうことかというと、1番目の条件が整っていない場合、すなわち極板がAgまたはCuでない場合にこの反応が起こるということです。
具体的にはハロゲンイオンが下のように反応し、気体のハロゲンが発生します。

ハロゲンが反応するパターンというのはそこまでありません。水溶液にNaClが溶けている時くらいでしょうか。
陽極3 酸素の発生~水の半反応式の作り方~
陽極で極板の溶解もハロゲンイオンの反応も起こらない場合に起こるのが酸素の発生です。
つまり酸素の発生というのは最後の砦みたいなものなのですが、なぜ最終的に酸素が発生するのか不思議に思う方もいるかもしれませんね。
実はこの酸素というのは水から作られます。そして電気分解において、水というのは必ず存在しますよね。したがって、最終的には必ず水から酸素が発生するという反応が起こるのです。
反応式は次のようになります。

これだけなら非常にシンプルなのですが、厄介なことに、水溶液が塩基性の場合は反応式は次のように書かなければなりません。

なぜこのようなめんどくさい状況が生じるのかというと、実は反応式に書くことのできるイオンはある程度の濃度が必要という暗黙のルールがあるからなのです。
塩基性の場合は上の式に含まれる水素イオンが十分にいないと判断されるわけですね。そのかわりに十分な濃度存在する水酸化物イオンを使って書き換えることになります。

ここまでの説明で「え、2つの反応式を覚えて使い分けなきゃいけないの?」と不安に思われた方、安心してください。皆さんの暗記の負担を少しでも軽減するためにこれらの式の作り方を伝授します。
具体的には次のステップで反応式を作ります。
水の半反応式の作り方
- いずれかの反応式を覚える
- 水溶液の液性からその反応式が使えるかを判断する
- その反応式が使えない場合、もう一つの反応式に書き換える
まずは一方の反応式を覚えてしまいましょう。残念ですが、こればかりは暗記するしかありません
そして次に、水溶液の液性から覚えた反応式が使えるかどうかを判断します。例えば上の反応式を覚えていて溶液が塩基性であれば、覚えていた式は使えないと判断できますね。
覚えた反応式がそのまま使える場合はすでにそれが答えになります。
ただもし使えなかった場合は書き換える必要がありますね。ここでポイントになるのが、もう一方の式は覚えた式から作れるという点です。やり方は次の通りです。

この式変換は中和の考えを用いています。塩基性条件であれば水素イオンは水酸化物イオンと中和して水になりますし、酸性条件であれば水酸化物イオンは水素イオンと中和して水になりますよね。
慣れるとこの式変換は一瞬でできるようになりますので、まずは何回も練習しましょう。

陰極1 金属の析出
ここからは陰極について説明していきます。
陰極で最優先で起こる反応は金属の析出です。水溶液中に金属イオンがいる場合、電子を受け取ることで金属となり、極板にくっつきます。
ただし、陽極のところでも述べましたが、金属というのは基本的にはイオン状態で安定していますよね。
したがって、陰極で析出するのは金属の中でもイオンになりにくい、すなわちイオン化傾向が低いものとなります。具体的にはAgとCuですね。
陰極の析出
陰極で析出するのはAgまたはCu
陽極でも反応するのはAgかCuだと覚えておいていいと述べました。つまり、電気分解で金属が反応するならAgかCuのいずれかだと覚えておくのが最も楽だと思います。
反応式は次の通りです。

陰極2 水素の発生
陰極でCuやAgのイオンが水中に存在しない時は水素が発生します。
最終的に水素が発生する理由は陽極の時と同様、水が反応するからですね。電気分解をするときに水は必ず存在するので、水から水素が発生する反応はどんな状況でも起こり得ます。
反応式は次のようになります。

ただし、酸性条件の時は次の式に書き換えないといけません。

陰極の反応式の書き方も陽極と同様です。再度確認しておきましょう。
水の半反応式の作り方
- いずれかの反応式を覚える
- 水溶液の液性からその反応式が使えるかを判断する
- その反応式が使えない場合、もう一つの反応式に書き換える
陰極の場合は左の式を覚える方が圧倒的に楽ですね。一応、両方の式からもう一方の式を導くやり方を載せておきます。

陽極と陰極で反応式が似ているので、何度も式変形を繰り返すなどして確実に覚えたいですね。

実際に演習してみよう
ここまで説明したことを理解していただければ、あとは問題演習を積むだけです。
ここまで皆さんがやってきたことは読むというインプット行為。あとはアウトプットを繰り返しながらインプットを挟むことで知識は確実なものになります。
では復習もかねて、それぞれの電気分解について陽極と陰極での反応を考えてみましょう。
問題1

まず陽極ですが、極板はPtなので反応しません。次に考えるべきはハロゲンイオンですが、今回は塩化物イオンが水中に存在しますね。したがって、陽極は塩化物イオンが反応します。
一方の陰極ですが、水中に銅イオンがいますね、したがって、銅が析出することになります。

問題2

まず陽極ですが、極板がAgなので反応することがすぐにわかりますね。
また陰極については水溶液中にCuとAgのイオンがいません、したがって、水素が発生することになります。水素が発生する反応式は次の通りです。

ところが、今回は水溶液が塩基性なのでこの式は使えないということになります。したがって、先ほどの方法で水酸化物イオンを含む式に書き換えることで正しい式が完成します。
以上から、この電気分解の反応式は次のようになります。

問題3
最後の問題です。

まず陽極ですが、金属板がCuなので、Cuが溶けてイオンになることがわかりますね。また、陰極は水溶液中にCuイオンが存在するので、Cuの析出が起こります。
したがって、反応は次のようになりますね。

銅が溶けて銅が析出するという不思議な反応ですが、実はこの電気分解は有名です。
この電気分解は銅の電解精錬と呼ばれ、銅の純度を高める方法として知られています。入試でも頻出ですので、不安のある方はこちらで復習しておきましょう。
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まとめ
今回は電気分解について解説しました。
最後の問題を解くときに分かったと思いますが、電気分解は意外にもシンプルですよね。
苦手意識がある人も今回の内容を何度も読み返して覚えるべきことを覚えれば、絶対に克服できます。
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